◆最終チェック
赤城は、トップコートを塗り、タイヤワックスをタイヤに塗り、大きなため息をしました。
赤城 「やっと、作業が終わりました。
予想とだいたい同じ時間でしたね。
これから最終チェックをします」
赤城はライトを手にして、ボディにいろいろな角度から灯りを当てて、キズの残りや拭き残しをチェックし始めました。
光男 「仕上がりに細かい人はいるんですか」
赤城 「ええ、高いコーティングをされるお客様の中には、愛車を愛する 『愛車精神』 が旺盛な方も多いです。
この車の方も、人には運転させないですよね。
この建屋の中にも自分で入れてましたし。
たぶん、椅子の位置、角度が少しでも変わっていたら、気になる方だと思います。
お客様にお車をお返しするときも、中にはまったくボディの状況などを見ないで、一言も言わずに車に乗り込む人がいます。
反対に、チェックがすごく細かい方もいます」
光男 「どんな人ですか?」
赤城 「ずいぶん前ですが、白の車で20分以上、ずーっとなめまわすようにチェックされていたお客様がいらっしゃいました。
『気になる点があったら言ってください』と言って、その場を離れましたが・・・。
また、出先でコーティング作業をした時ですけど、作業を完了したら、お客様に『じゃあ、行こうか』と言って車に乗せられたことがあります。
どこに行くのかわからなかったんですが、貧乏な中年男を拉致することもないだろうし、お礼に昼食をいただけるのかな?と思ったら大違い」
裕太 「どこに行ったんですか?」
赤城 「少し走った所の路上です」
光男 「??? 」
裕太 「 ??? 」
赤城 「路肩に車を停めて、車から降りて、なめるようにボディをチェックし始めたんです。
そして、Uターンして、反対側もチェックしていました。
私は少しあきれて、そばに立っているだけでしたが・・・」
裕太 「光男もやりそうじゃん」
光男 「う~ん」
赤城はチェックを終えて、ライトを床に置きました。