◆コーティングの準備 ≪水アカ落とし≫
光男と裕太は、土曜の午前中、「洗車広場」で待ち合わせをしました。
先に着いた光男は、すでに洗車を終わり、薄くメンテナンス剤を塗っているところでした。
裕太 「光男、遅れてごめん」
光男 「ああ、裕太。全然かまわないよ。
今日は、デートの日じゃなかった?」
裕太 「うん。今日、車をキレイにしてから、明日、デート」
光男 「うらやましいね。
じゃあ、混む前に洗おうか。洗い方は、覚えてるよね」
裕太 「だいたい・・・」
2人は、「洗車広場」の手洗いブースで洗い始めました。
今日は、裕太も少し慣れた手つきで作業をこなしています。
光男 「じゃあ、残った水分は、このクロスで拭こう」
裕太 「順平にもらったヤツだな。気に入った?」
光男 「うん、すごく。こんなに大きなクロスは売ってないから」
水分の拭き取りを終え、光男は裕太の車のボディをチェックしはじめました。
裕太 「そんなにジックリ見られると、車が恥ずかしがるな・・・」
光男 「だいぶ傷んでいるけど、手入れすると、キレイになると思うよ」
裕太 「ほんと? どのくらいキレイになるか、楽しみだな」
光男 「まず、水アカを落そうか」
裕太 「この、黒い汚れね・・・」
光男 「コンパウンドでゴシゴシ落すのは大変だから、水アカ落としで落そう」
裕太 「えっ、水アカ落としって、前からあったっけ?」
光男 「いや、俺の車は黒だから、水アカ落としは使ったことないんだよ。
今日のために買って来た」
裕太 「悪いね~」
光男 「じゃあ、説明書を読んで・・・必ず手袋をして使用することって」
裕太 「ああ、ビニール手袋が入ってるね」
光男 「かなりキツイやつなのかな?」
裕太 「これ、知らないの?」
光男 「うん、自分の車じゃないから、適当に安いやつを買って来た」
裕太 「怒るよ!」
光男 「でも、カーショップで変な物は売りっこないから。大丈夫だと思うよ」
裕太 「光男が嫌いなカーショップで?」
光男 「だから、自分のは買わないって」
裕太 「ハイ、ハイ。え~っと、本剤を添付のスポンジに筋状に付けて・・・ボディに薄くのばして、軽い力でこすります・・・ ハイ、こすりました。
おお、キレイになってる」
光男 「この前は、コンパウンドでこすって落としたけど、この車全体をキレイにするには、こっちの方が早いと思ったんだよ」
裕太 「確かに、早そうだ。くたびれたら、替わってくれ」
光男 「大丈夫だよ。裕太はスポーツマンだから、この車1台くらい簡単に仕上げられるよ」
裕太 「いや、最近、腹が出てきて、前屈みがキツクっって・・・」
光男 「えっ」
裕太の話は、ただの軽口ではないようで、ボディの下の部分を洗うときは、少し苦しそうでした。
裕太 「脚立の昇り降りも大変だよ」
光男 「独身で、そんなにでかい車を買うからだ」
裕太 「でも、そのうち結婚して、子供が3人できて、少年野球を始めて、チームのみんなを乗せて試合に行って・・・と考えるとねぇ」
光男 「何年後の話だよっ」
裕太 「人生なんてあっという間なんだよ。あっという間におじいさん」
光男 「ハイ、ハイ、浦島さん、作業の手を止めないで」
裕太 「はあ~、やっと終った」
光男 「すぐ水をかけないと、シミになるって書いてあったよ」
裕太 「み・つ・お~。一服させてよ」
光男 「じゃあ、水流ししておくか」
裕太 「お願いしまーす!」
光男は水を流しながら、さらにクロスで拭きながら「すすぎ」をして、例のロングクロスでボディの水分を拭き取りました。
水はじきしない、ベタベタのボディを見て、裕太が言いました。
裕太 「あれ~っ。この前、順平のスタンドでやったコーティングがなくなっちゃった!」
光男 「水アカ落としで落ちちゃったね。水アカ落としはアルカリ性で、油分を取るんだって。
だから、手の油分も取っちゃうから、手袋をした方がいいんだよ。
油を含んだコーティングも、水アカ落としで落ちちゃうらしい」
裕太 「あの水はじきは、油のせいだったのか~」
光男 「いや、サラダ油とかの油じゃないよ。
油分を含んではいるけど、色々考えられた、いいコーティングだとは思うけど、少しずつ、大気の汚れや汚れた雨と一緒に汚れていくわけなんだよ」
裕太 「ふ~ん。でも、せっかくやったコーティングがなくなっちゃうのはさびしいな」
光男 「いまから、もっといいコーティングをするから・・・」
裕太 「うん・・・。 一服している間に見てたけど、すすぎって、水かけるだけじゃなくて、タオルで拭かなきゃダメなの?」
光男 「さっき言ったように、水アカ落としはアルカリ性で、ヌルヌルするんだ。
このヌルヌルを完全に落としておかないと、コーティングがうまく乗らないんだ。
顔を洗って、石鹸のヌルヌルが残っている上にお化粧するみたいなものなんだ」
裕太 「俺はお化粧しないけど、そういう例えなのね」
光男 「さあ、水アカ落としは終ったから、コーティングしようか」
裕太 「待ってましたっ!」